ステッカー帝国の復讐 Young-Adult Fiction = ORE-ginal Edition 第1話 トーゲンキョーが危ないゾ 1-1

 大切な人を殺した。
 否。
 正確には、『世間一般』では、大切だと言われている人を手にかけた。

 オレが殺したのは親だ。
 否。
 より正確には『育ての』親か。

 どうしてもオレには、あの2人が許せなかった。
 殺してしまわねば収まらなかった。

 一振り、一振り。
 確実に殺す為。

 彼らはずっとオレに欺かれ続けた。

 「お前は将来この国の為に戦うのよ。偉い使徒様になって、英雄になるのよ」

 物心ついた頃から、過酷な修行……

 否だ。

 あれはただの、虐待だ。

 虐待の日々だった。

 「そんな事じゃ使徒に何てなれねえぞ! お前の事喰わせてやってるんだから、真面目にやらねえか!!!」

 そう言われてオレが口にねじ込まれたのは、泥で作った団子だ。

 「鬼畜な帝国を滅ぼすのよ!」

 一振り、一振り。

 「あいつらは鬼だ! 鬼を殺すのにためらうんじゃねえ!」

 一振り、また一振り。

 俺は竹刀を振り続けた。

 14の夏。オレは遂に、皇国へ呼ばれ改造手術を受けた。

 使徒となったオレが最初にした事、それは、親殺しだった。

 理由は簡単だ。彼らこそが鬼そのものだったのだから。

 だからオレは躊躇わなかった。

 虐待をされ続けた三和土(たたき)から見えた血まみれの両親が転がる部屋の光景……あれこそが夢にまで見た、オレの桃源郷だった。

 1-1 桃源郷があぶないぞ

「ふわはーーーー!」

 長旅で疲れ果てたシュウは安堵の大きなため息をBGM代わりにして、やや大げさに倒れ込んだ。

 シュウたち一行が辿り着いたのはメソ魔メリア大陸中央南端の小さな村トーゲンキョービレッジ。人口100人ほどの、小さな集落だ。どことなく日本の田舎町に似ている。時代劇にでも出てきそうな所である。その入り口付近にあった『桃尻』が今夜の宿屋だ。

「ここの女将さん、エリカって名前らしいぞ。さぞかし美人なんだろうな」

 そう言いながら通された2階へ上がって来た狂キリンは、そこでようやくフードを外す。キリン面は使徒であるのがバレバレなので、外を歩く時は極力隠さなければならないのだ。

「シュールだねその考え。エリカにだって色んな顔があるだろうに」

 とは、本来もっと珍妙なので隠れるべきなのにそのまま歩いている刺青髑髏の弁。

「女子プロレスラーみたいなエリカだっているよね」

「ゴリラの使徒にだってエリカって名前つけれるし、カオスな話」

 明らかに誰かの事を差してそうな無意味なトークを展開する3人。バイバイは窓際で横になって「くーくー」と小さないびきをかいている。いびきまで「バイバイ」ではなさそうだ。久しぶりの穏やかな時間が一行を包みこもうとした、まさにその瞬間だった。

 外から、「きゃー!」という耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。

 女性の声だろう。

 いつかしっかり説明するが、一行は追われる身であり本来そんな悲鳴など無視するべきである。しかし、シュウの本質はそれを許さないし、狂キリンは女性への贖罪の意識に諍う事が出来ない。やって、こうだ。

 狂キリンは窓際のバイバイの上を跳躍し、窓から外へ。シュウはそれに遅れながらも階段へと駆け出していた。その様子を「やれやれ」という顔をして、いや、本当に口にして「カオスだね」と取り残される刺青髑髏。こりゃどうにも猿だもの引っ掻くもの。

「おうおうおう、おどれどこに目を付けて歩いてるんじゃケーン!!!」

 場面変わって『桃尻』から少し離れた角を曲がった天下の往来。ピンク色の和装に似た服装に身を包んだ少女が尻もちをついている。その前に立ち塞がるは巨大な影。あれは……鳥だ。それも、結構ド派手な鳥。鳥人間だ。

「ご、ごめんなさい……」

 意外とマッチョで絢爛な姿の鳥人間の怒る剣幕に、少女は謝罪を振り絞る事で精一杯だ。

「謝って済む事じゃないんじゃケーン! お腰につけた献上物の黍団子、潰れちまったケン! これもう間に合わないケンよ!! どうしてくれるケン!!!」

 何となくこの村の世界を読者の方々が察し始めた頃、

「何をしてるんですかーーーー!」

 と、世界観を崩しかねない杉下右京のモノマネをしながら狂キリンが前回「かっこいい」と好評だったヒーロー着地で推参(作者の妄想が含まれています)!

「おどれ、そのキリン面は! まさか指名手配の『燃えるキリン』ケン!?」

「次々明かされる新設定。果たして読者はついてこれるか心配です。そんなメタ展開をも辞さない男が、燃えるキリンだったりしてね」

「ええーい?! 何を言ってる、使徒同士の闘いは名乗りからが常識ケン! 名を名乗るケン!」

「こんなうら若い少女に乱暴狼藉の貴様に常識を問われるとは心外至極、呼ばれて名乗るも烏滸がましいが、メソ魔メリアの麒麟児『燃えるキリン』こと、魔境遇狂キリンとは吾輩の事!」

 白波五人男の見栄を一人で切るような勇ましさ!

 そこにようやくやって来たシュウが「名乗っちゃうんだ……」と困惑しつつも使徒の間で動けない少女に駆け寄りフォローする。

「やはりそうか! オレはこのトーゲンキョービレッジを束ねる桃ラーマ様の配下! 絢爛雉のケンとは俺の事ケン!!! 賞金首とあっては見過ごせないケン! いざ尋常に勝負するケン!」

「あいつ、ずっと語尾に自分の名前を叫んでたんだね」

 シュウは物陰に少女を連れてくると、小さく聞こえないようにそうツッコんだ。

「君、大丈夫?」

「平気です、あ、あの」

「はい?」

「ありがとうございます」

 年頃はシュウと変わらないぐらいだろうか。少しあか抜けないところはあるが、村で一番の美少女と紹介されてもおかしくないかわいらしい顔立ちをしている。そんな子が真正面、シュウを潤んだ瞳で見つめて言うのだからたまらない。耐性のないシュウは何だかドギマギしてしまって上の空の返事をする他なかった。

 シュウが照れまくる頃、ついぞ戦闘が始まった。

「こっちからいくケン! 青山に鵺は鳴きぬのケン・ケン・波ぁーーーーーー!!!!」

 大きな羽をばたつかせると、巻き起こるつむじ風! 狂キリンを切り刻まんと迫りくる!

「仲間外れにしないでよ!」

 華麗な跳躍でそれを避けきる狂キリン!

「切っ先タン舌ブレード!!!」

 応戦とばかりに鋭く変化した舌でケンを切りつける。しかしそれをケンは絢爛な鎧と化した羽でガード。

「そんなもの効かないケンよ! ほらほら、ケンケン波ぁーーーーー!!」

 ケンの猛攻!

「レロレロロー!」

 舌のブレードをしまう動作で狂キリンに一瞬の隙が生まれ、つむじ風が狂キリンを切り刻む!!

「のわらーーーーっ!」

 たまらず吹き飛ぶ狂キリン。

「狂キリーーーーン!!!!」

 シュウの絶叫がこだまする。

 キリン男が吹き飛んだ先に、刺青髑髏の姿が。彼はそっと耳元にアドバイスする。

「隙をつかれたなら、隙をつき返すだけぞなもし」

「ぞなもし……そうか!」

 何が「そう」なのかは分からないが、それで何かを頓悟し開眼した狂キリンは立ち上がり、腰のベルトのバックルから魔にマニ車を召喚する。

「ぐははは(悪魔的笑い)! 何をやっても同じ事、春の野に若菜摘みつつケン・ケン・波ぁーーーーーー!!!!」

「臨機応戦! 闇の静寂(しじま)に、海の蜆(しじみ)に、夜の随(まにま)に、人の魂(アニマ)に! 魔にマニ車! 大回転!!!」

 それは同じ事のように思えた。ただ、同時に技を放っただけに見えた。しかし実際は違う。狂キリンには、ケンがケンケン波をくりだす直前の一瞬、彼の体を覆う羽を広げ、隙が生まれる事を見抜いていたのだ。後はスピードの問題。前回と同じ詠唱に思えるが、信じられないぐらいの早口で狂キリンは言っている。シュウの耳には、

「リオッセシッシッマニマニアニマニダッカッテン!」

 ぐらいにしか聞こえていないだろう。だから魔にマニ車の反響する回転音はケンの羽ばたきよりも早く、その身に到達した。

「けんもほろろーーーーー!!!」

 直撃を喰らったケンはたまらず吹き飛ばされ、そのままどこかへと消えていなくなってしまった。

「雉も鳴かずば撃たれまい」

 狂キリンはそれだけ言うと、例の魔にマニ車の反響ですぐに酩酊状態へと突入し「ハラホロヒレハレハッパフミフミ」等とのたまいながら、こちらもまたいずこへかと歩き去ってしまった。

 どうやらこれで、いったん少女は無事のようだ。

「どうもありがとうございました」

 助けてくれたのは狂キリンだが、彼がいないので仕方がない。少女はぺこりとシュウに頭を下げる。

「あ、いやー、えーっと、あ、僕はシュウ。君の名は……?」

「あたし、清(キヨ)って言います。鬼っ娘クラブの清です」

「鬼っ娘クラブ?」

「はい。まだ見習いですけど……」

「シュウ君、シュウ君」

 刺青髑髏が顎招きする。手がないから体全体で招く、それが顎招きなのだ。

「なんですか?」

「シュウ君、きみこれ今、あの娘をかわいいとか思ってるね。でもあのピンクの和装風井出達に『鬼っ娘クラブの清』という源氏名っぽい名前……。間違いないよ、あの子は娼婦の生まれさ」

「え?」

 小学5年生のシュウには話しが呑み込めない。

「まさか客を取らされる事はコンプライアンス的にないだろうけど、見習いって言ってるし、ゆくゆくはそうなるんだよ。親に捨てられたか何だか分からないけど、あんまり深入りしない方がいいんじゃないかな。こりゃシュールだね」

「良く分からないですけど、襲われた後ですし、お家にぐらい送り届けてあげましょうよ」

「あー、出たよこの、巻き込まれやすい体質特有の人の良さ。まーいいけどね、後で手痛いしっぺ返しが待ってるよ!」

 シュウは気にしていないようだ。ショウフがどんなものかも分からない。何かの職業っぽい事ぐらいしか察する事ができていないのだ。

「あんな事があった後だし、良かったら家まで送るよ」

「ありがとうございます! 私の家、この近くなんです。『桃尻』って言うラブホテルに今は住まわせてもらっていて……」

「僕たち」

「ミーたち」

「宿屋じゃなくて、ラブホテルに泊まっちゃってる~~~?!」

 あー、だからさっき「君の名は?」なんてわざとらしく聞いてたのね、これやりたくて。

 と言う訳で、次回をお楽しみに。

  つづく(昔は連続ドラマに「つづく」って表記あったけど、最近見ないね)

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